桜門技術士会設立20周年記念誌 祝辞
目次へ戻る
薬学部の生い立ち
 桜門技術士会はこの度、設立20周年を迎えられるとのこと。まことにおめでとうございます。

 会員規定を読ませていただくと、日本大学出身者または関係者で技術士第1次、第2次試験の合格者またはチャレンジする者となっています。試験の種類を薬剤師国家試験と読み替えますと、我々薬学部出身者にも該当すると思います。これまでに本誌での薬学部紹介がなかったと伺っておりますので、この機会をお借りして学部の生い立ちと近況についてご紹介させていただきます。

 薬学部は1952年(昭和27年)に工学部(現在の理工学部)に薬学科として誕生しました。従って、本年で創設60周年ということになります。医学部ではなく工学部内に産声をあげたのは、当時の薬学教育を反映したものです。当時は薬の製造、分析、調剤といった、物質としての薬物教育が中心でした。まさに「薬という化学物質」の専門家を養成していたのです。則ち、薬を治療薬としての側面からではなく創薬(化学製品)としての側面からアプローチするという発想に根ざしています。従って、当初は「薬学科」ではなく「製薬工学科」の名称も検討されたと聞いております。記念すべき第1回生は、薬学士ではなく工学士の薬剤師となったそうです。
 その後、1960年代に入り薬害問題が多発しました。サリドマイド(睡眠薬)による奇形児、キノホルム(整腸薬)による下肢の対麻痺症(スモン)、ピリン系薬剤(風邪薬)によるショック死などです。これらを契機に、薬に対する考え方が変貌してゆきました。医薬品は品質のみではなく有効性や安全性が重要で、薬剤師は「薬という生体との関わりを持つ物質」の専門家でなければならないというものです。いわゆる医療薬学の重要性が叫ばれ、薬学教育の年限延長問題も議論され始めました。1980(昭和55)年改定の薬学教育基準では、病院実習またはこれに準ずる研修を履修させる旨が加えられました。こんな風潮が後押しし、1988(昭和63)年に理工学部船橋キャンパスの野球場跡地に、薬学部として独立しました。

 その後、1992(平成4)年には博士前期課程を、その2年後には博士後期課程を設置しました。1992年の医療法改正によって、薬剤師は「医療の担い手」としてその職務が明確化され、薬学部における職能関連教育の充実が迫られました。

 また1997(平成9)年には薬剤師法が改正され、服薬指導の義務化、情報提供が薬剤師の任務に加えられました。こうした医療薬学重視の流れの中で、医療現場で必要な知識や技能を身につけた薬剤師を育てるには長期の臨床実習が必要であり、6年制教育への移行が一気に現実味をおびてきました。

 2004(平成16)年に学校教育法の一部改正案が可決され、薬学を履修する課程のうち臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするものの就業年限は6年と定められました。それを受けて2006(平成18)年から薬学教育6年制がスタートしました。4年制学部と併設する大学もありますが、本学は6年制一本での教育を選択しました。

 今年は6年制教育の第1回生が薬剤師として社会に巣立ちました。本学が還暦を迎える年に、6年制の1回生が世に出るのも何かの因縁かもしれません。
 辰年の卒業生にちなんで、大きく羽ばたいて天空をかけ廻って欲しいと思います。
ページトップへ戻る
-- 桜門技術士会 https://www.oumon.com/ --